患者さんとの関係

12月15日

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患者さんとの関わり方について考えさせられることがあった。

患者さんには「退職までの2年間、歯が抜けないようにしてほしい」との要求があった。その時点で歯はぐらぐらで「それは難しい。普通は義歯です。」との提案に「義歯は使えなかったので嫌」という答え。可能性があるのは、そのままでは抜けそうな歯たちを全て連結固定するフルブリッジだけだと説明。ただし、保険は利かないので上顎だけで100万円ほどの負担となるし、やったからといってどれだけ持つかということは言えない(それくらい難しい症例)ことを説明した。専門的に言えば、残っている歯は⑦654③2①①2③で、かなり重度の歯周炎。私のいうかなり重度、というのは普通の歯科医院では絶対に残せないという意味に等しいのは解って頂けている方も多いと思う。

当然金銭的な問題で「是非それで」などということにはならず、治療方針も暗礁に乗り上げた。「義歯は嫌、でも歯は残してほしい。だけどお金はかけられない(orかけたくない)」という八方ふさがりな状態。とりあえずこのままだとどんどん抜けて、手遅れになると説得し、上顎だけは仮歯を自費でいれさせてもらった。ここまで辿り着くのにも、なんども説明を重ねてかなり大変だった。結果、動揺はぴたっと止まり(固定をしているから)安心して咬めるように・・・のはずが、上ががっしりしたので、揺れていた下の歯が痛くて咬めなくなった。下も重度の歯周炎だったわけだ。当然、下の歯もまずは固定をしなくてはならない。これもまともにやったら保険の利かない治療になるが、咬めることと2年間抜けないことを考えると、自費の仮歯での固定はこれまたやむを得ない選択だった。だが、当然これで上下でしっかりと咬めるようになったのだ。

さて、これで落ち着いて歯周治療に入れると思いきや、「麻酔は嫌だ」と言ってますと担当衛生士から報告を受けた。こうなるともう治療がうまく行く気がしてこない。「麻酔なしでやって」と衛生士に言ったが、ゴールの見えない旅が始まってしまった感があった。

そして、無断キャンセルにて中断。

下の歯の仮歯が壊れて来院、前の時点で患者さんの希望が定まらず方針が不明瞭だったために残しておいた不備な点の修正をしてこれでバッチリとなったが、この先どうしたいのか、が曖昧なまま。もちろん、歯を残したいという最大の希望はわかる。2年間、いやあと1年とちょっと。ここまでの治療で間違いなく持つ。でも、その後はどうしたいの?というのを衛生士を通じて度々問いかけていたが、「残すためならなんでもします」という「必死さや意欲」は感じられないと私には伝わってきていた。

そもそも「2年間だけもてばいい」という意欲しかない患者さんに、残すための人並み以上の努力を求めてしまうのも間違いだったのかもしれない。この患者さんを診た日の夜は、今後の治療方針について担当衛生士と激しく論議をすることが多かった。

私には、このままじゃ総入れ歯間違いなしなのに、しっかりと治療が進めばこの先5年10年持つ可能性があるのに、やると言えないなんて信じられない。後が無いのだからもっと必死になってくれないと困る!と衛生士に怒りをぶつけていた。必死になるように意識変革させてくれと言っていたわけだ。
上下総入れ歯になったら、この患者さんは絶対に後悔するのは目に見えていたから、こちらもかなりヒートアップしていた。もちろん、治療の見通しが自分の中で「絶対に残せる」という自信も見えてきていたので、なおのこと残す意欲を患者さんに求めてしまったのもある。

ただ、患者さんにしてみれば「お金かけて、どれだけもつの?」という疑問をもったのは当然のことだろう。しかし、こんなにもハイリスクな患者さんがどれだけもつのかなどということはわからないし、そこに責任はもてない。実際は10年もたないと思ったら私はやらない、またはその旨説明してご理解いただけたら手を付けるようにしているのだが、この患者さんの場合には全身疾患もあるし、ひとたび悪くなれば1年かもしれないし、案外10年以上かもしれないしというところがあって、こちらの提示も不明確にならざるを得なかった。内心は抜群の協力度のもとで10年くらいはもつかなという目安はあったが、患者さんとしてはそれでも保証が欲しいと思ったことだろう。
こんなところにも意欲がいまひとつあがらなかった原因があったかもしれない。

こちらが残そうと必死になっても、「抜けちゃう歯ならば」という煮え切らない思いがあると、治療は上手くいかない。
結果として、「なんの為に治療しているのかわからない」という私の怒りに任せたきついひとことに,「そこまで言われたくない」と返されてこの患者さんとの関係が終わってしまった。

本来、このようなとても難しい患者さんに相対する時は、救えそうもない歯を救って患者さんはとても喜び感謝を表してくれ、こちらはやりがいある仕事ができた達成感をもつことと患者さんの笑顔を見て安堵し、衛生士は自身の仕事に充実したものを得つつ、これからのメインテナンスの継続で治療の永続性を高める責任感を感じる、という3者がそれぞれプラスの位置で終われる事が理想だ。重度歯周炎の治療を積極的に行ったほぼ全ての患者さんとはこれができていた。

「残せるのだからもっと残したいと思ってほしい」というのは私の価値観の押しつけだったのだろう。そこまでの熱意は持っていなくても、せっかく頼ってきてくれた患者さんにモチベーションのアップも含めてうまく働きかけができず、中途半端な終わり方をしてしまったことに対して後悔と責任を感じる。

お互いに不満な感情を持ちつつも、患者さんは「ありがとうございました」と言って下さった。私も「こちらこそ、ありがとうございました」と頭を下げた。まだ本格的な歯周治療には入っていないが、ここまでの治療を理解してくれて、これからどうしていったら良いのかを理解している歯科医師は残念ながらほとんどいない。最後にできることとして、信頼できる先生をご紹介することで患者さんの将来が少しでも良い方に向かえばと思っている。

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