ブレイズメス1990

09月06日

ブレイズメス1990 (講談社文庫)「チームバチスタの栄光」の海堂尊の小説。読み始めたら止まらず、一気に読んでしまった。実は売れに売れた「チームバチスタ・・」は読んでいないし、この著者は初めてだったが、文体も整っているしテンポや展開もよく考えられていて、乗ったが最後途中下車は許さないみたいな感じだった。

話の中心となるのは世界でただ一人しかできないテクニックを持つ天才的な心臓外科医だが、彼はモナコ公国のモンテカルロで病院勤務していた時に、その腕を頼ってくる患者に全財産の半分をカジノでルーレットのシャンスサンプル、すなわち赤か黒かで賭けさせ、勝ったら倍返しで戻ってくる金額の半分を報酬として受け取り、手術の要請も受ける、というやり方でやっていた。さしずめ、ブラックジャックみたいな先生とでもいえばわかりやすいか。賭けに負けた患者は診ないか、再度シャンスサンプルするかと非情だ。

普通の人は、こんな奴は医者の風上にも置けない悪い奴だ、というレッテルを貼るかもしれない。しかし、彼の言うように、お金を持っている人と持っていない人が同時に運ばれてきて、自分の体はひとつしかないからどちらか一人しか助けることができないとしたら、どちらを助けるのか?という問いには明確に答えられる人もそうはいないだろう。

ブラックジャックだって我々世代は子供の頃に読んでいると思うが、こういうのは非道徳的な医者なんだなと思いつつも、救えそうもなかった命を天才的なメスさばきで救っていく「ヒーロー」という立場においていたのは間違いない。

自分の診療に置き換えて考えてみるが、現実問題として特にかなり重症の患者さんにおいて、やはりお金を潤沢にかける治療の方が質の高い結果につながるし、しかもその結果の差がかなり大きい。私自身に治してあげられる力があったとしても、所詮絵に描いた餅で終わることもほんとうにたくさんある。もちろん最善は尽くすが、それは私の最善ではなく、限られたコストのなかでの最善でしかない。この辺のジレンマは大きい。

自費でしか診療をしていない先生たちが言うように、「全員を救ってあげたいけど、それは無理だもん。そしたら、金額でまずハードルを設定してってやらないとしょうがないじゃん。」ということになるか。でもね、ひとつ言えることは、お金をかけてでも治したいって思っている患者さんは、お金をかける気がない患者さんよりも明らかにモチベーションが高く、歯みがきもしっかりやってくれる。やってくれるから治りも良いし、その後の状態もきちんと維持できる。お金をかけない患者さんは、言われたらやるけどそれっきり。危機感ないし、お金の痛みもないから言われてもやらない人もかなり多い。

でも、例外もある。こういう例外は治療の治りが良いからこちらもとてもうれしくて、損得勘定抜接してしまう。みんながモチベーション高ければいうことないんだけれど・・・。

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