安かろう悪かろう

12月24日

たまたまこんな記事を目にした。(J-castニュースより引用)

TKY200912170275いい物は高い、格安3ケタジーンズはありえない――。ファッションデザイナーの川久保玲さん(67)がこう発言して、論議を呼んでいる。コスト削減ばかりを追い求めると、いい物を作れなくなり、長い目で見て利益にならないというのだ。

   川久保玲さんと言えば、かつて高級既製服プレタポルテの旗手として一世を風靡した。自らのブランド「コムデギャルソン」を1969年に立ち上げ、81年にはパリ・コレクションにデビュー。カラス族を生んだ黒ずくめの服で異彩を放ち、その後も前衛的なファッションを次々に発表している。

   その大御所が、今度はネット上で脚光を浴びた。それは、朝日新聞の2009年12月21日付インタビュー記事においてだ。

   同社編集委員の質問に、川久保さんは、売ることばかり考えるとファッションが見えないとあがいていると明かすと、次のように訴えたのだ。

「ジーンズ1本が何百円なんてありえない。どこかの工程で誰かが泣いているかもしれないのに、安い服を着ていていいのか。いい物には人の手も時間も努力も必要だからどうしても高くなる。いい物は高いという価値観も残って欲しい」

   もちろん言及しているのはジーンズの価格破壊だ。

   ユニクロ系列店が09年3月、990円というジーンズを発売したのをきっかけに、競争が激化。流通大手のイオンなどが880円で、さらにドン・キホーテに至っては690円で売り出した。

   3ケタへの価格下落で、リーバイスなどの既存ブランドは、売り上げが激減している。川久保さんは、安さを求めた結果、若い人たちの創造性が失われていくのも心配だというのだ。

   これに対し、ネット上では、3ケタジーンズ否定に異論も相次いでいる。2ちゃんねるでは、川久保さんに同調する意見もあるが、「いいものを安く作ろうという努力観はないのか?」「ブランドと言うバッチだけで高価な商品が多くなりすぎた」といった書き込みも多い。

(中略)

   ジーンズ販売現場では、「3ケタ」への対応の違いで、考え方が分かれている。

   880円の商品を売り出したイオンでは、品質についてこう弁護する。

「スケールメリットなどで、品質のよいものを安くできています。委託先の工場に継続的に発注していることから、スキルが上がり、生産性もアップしています。機能はしっかりしており、一定基準をクリアしています。洗い加工を加えた1980円のジーンズも揃え、デザイン性でもお選びいただけます。いろんな意見があるようですが、無理に安くしているわけではなく、合理的な仕組みで利益を上げているんですよ」

   2009年8月に880円ジーンズを発売して、3か月で70万本も売り上げたという。

   一方、リーバイスなど既存ブランドを主に扱っているジーンズメイトでは、3ケタジーンズについてやや懐疑的な見方だ。

「薄い生地や原価の安いボタンなど、それでもいいというお客さまで成り立っているようですね。工場で余ったものを使っているといううわさもあり、生地がなくなれば安定的に供給できなくなるのでは。うちは『ジーンズ』の名前をうたっていますので、ある程度クオリティのあるものでやっています。丈夫にできていて安心というブランドバリューがありますからね。わざと古着っぽくするなどファッション性を出すと、コストもかかるんですよ」

   1万円以上のブランド物もあるが、安くてもクオリティのある1990円の商品も揃え、2極化する客のニーズに応えていきたいともいう。

さて、歯科においてはどうか?この20年近くで下がりに下がった医科歯科の保険診療報酬が22年度改定で0.19%上がる見込みだ。0.19%ってのはまやかしで、今はもう患者獲得競争が激化しているので下がるところはどんどん下がり倒産し(もしくは過去の貯金で食べていき)、こんな診療報酬アップではもう救いの手にはならない。対して、いわゆる商売上手なところはどんどん売り上げをあげていく。でも待ってほしい。医療で売り上げをあげるって、そこにどんな意味が隠れているのだろうか。

経営に長けている先生の話を聞くと、どうしても「こだわり」に欠ける傾向があるように思える。分院を作ったり、医院を大きくしてたくさんの患者さんを集めることは確かに大切かもしれない。しかし、それにより医院のレベルが下がってはいけない。私たちは、できるだけいい治療を患者さんに提供したいといつも思っている。そのためにレベルの高い治療を求め、日々勉強を続けている。そのなかで、ここは譲れないなという「こだわり」が出てくるものだ。勉強熱心でマニアックな先生ほどこだわりが多い。しかしこの「こだわり」が経営を逼迫させる元凶となる。

人が1日で診ることのできる患者数など、限られている。当院では1日約40人前後の患者数を歯科医師2名と3名の歯科衛生士たちが担当している。もうこれでいっぱいいっぱいだ。これ以上は診れない。開業医の先生は「え、少ない」と思うだろう。歯科医師一人の医院でこれくらい診ているところがほとんどだ。私と藤田歯科医師は十数名ずつ、あとは歯科衛生士たちが担当する。我々歯科医師もそうだが、歯科衛生士たちも治療の質にこだわる。彼女たちも
日々成長している。だからまた責任ある仕事を任せるようになる。しかし・・・。

いい治療には「時間」と「人」と「金」が必要なのだ。

共産党は「保険でいい治療を」という財源確保への政治的スローガンを掲げる。たしかにそれができれば一番いい。でも「いい治療=ベストな治療」は無理だ。それを患者さんにはわかってもらいたい。

先日来た患者さんの悩みは、他院で作った前歯4本がしっくりこないというものだった。聞けば無償で作り直しもしてもらったらしい。保険診療の中ではもうそれだけで大赤字だ。見ると確かにな、と思うように患者さんは形態、色、歯並び、歯の隙間など多くの問題点を挙げてなんとかしてほしいと訴えたが、要求のレベルが高く、私は正直に「全部は無理ですよ」と告げた。安請け合いしてトラブルになるのは嫌だったので、できることはここまでとはっきりさせて、これ以上をもとめるならば自費の治療にするか転院するかして下さいと言ったが、結局保険でとなった。「保険の中で最高の物をお願いします」と言われたが、そもそも保険診療でできるものは最高からは程遠いので、これも正直に「無理です」と告げた。先日完成しセットしたが、私なりには“保険治療としては”満足いく仕上がりだったと思うし、患者さんもこれならばOKと思っていただけたと思う。分かってもらえたと思うが、無理と言いながらも最善は尽くしているんです。いや、その最善というのも怪しい。

保険と自費とでは、かける手間暇、労力、集中力、そしてコストがまったく違う。患者さんにしてみれば、安くいい物がほしいという気持ちはよくわかるが、保険診療の中で最善を追求すれば時にそれは完全なボランティアになる。当然私たちは不採算部門も毎日こなしているし、治療にしても利益のでることでないことがある。それはもう仕方ないことと思っていて、最後に利益が出ていれば経営は成り立つと考えている。問題は患者さんはお金を払っているのでボランティアを受けているという感覚がないことと、その陰で今一番泣いているのは歯科技工士であるということだ。日本の安い治療費を支えているのは歯科技工士だといっていい。先のジーンズの「泣いている」がそうだ。本当に上手い技工士はチャージも高い(保険のものは受け付けないですよ!)。それでも「忙しくて寝る暇がない」と言う。しかし、我々が保険診療で出す近場の技工所の技工料金は彼らの経営的にギリギリのラインだと思う。これでは技工士がどんどん辞めていくのも仕方ない。

我々は「医療」をしているのであって物を売る「医業」をしているのではない。質の高い医療を続けていれば、細々とだろうが結局わかっていただける患者さんには末永く選んでいただけるという自信がある(今は)。残念なことに経営的な観点から審美や予防の「医業」に走る先生も多いが、わたしの選ぶ道ではない。患者さんとの信頼関係を構築するにはそれなりの努力と年月が必要だろうが、病気や障害の治療という「医療」で得られたその絆は固い(と思う)。これこそが患者さんと長くつきあうために必要な意識なのだろう。

というわけで、なかなか予約がとれません。ご迷惑をおかけしますが、ご理解ください。

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