6月末のあるできごと

07月09日

パスタ6月のある日の夕刻6時ごろ、当院では最後の患者さんをこなしている時間だったが、私は院長室でくつろいでいたのか事務をしていたのか、そこにスタッフが「先生、患者さんじゃないんですが話を聴いてほしいという方がいらっしゃっていて、カウンセリングルームに今いるんですが、言っていることがよくわからないんです」と言いに来た。受付では話せないことだったらしいのだが、安易にカウンセリングルームに通したのは良くなかったかとも思う。まぁ、いざとなればセコムや警察においでいただくことになるのだろうが、今回はそういう事案ではなかった。

カウンセリングルームをのぞくと、私と同年代くらいの男性が座っていた。身なりや恰好はいたって普通。挨拶もきちんとできる。こちらも挨拶して話を聞き始めると、要するに「子供の医療費などでお金がなくなり、今日明日の食事もままならないので、小額で構わないのでお金を貸してほしい」ということだった。どうやら千代田の自宅から店を1軒ずつあたっていたらしいが、すべて門前払いだったそうだ。そんなの当然なのだが・・・。

事情があって先月まで生活保護を受けていたが、今月から働き始めたものの、色々と出費をしたらお金がなくなった。妻と子供3人がいて、今日食べるものもない。とても困っている。というのがその人の事情らしい。まずは給与の前借りをしたら?と聞いてみたが、仕事は運送業で給料日までもう少しだが、働きはじめて1カ月目なので会社は前借りを許してくれなかったそうだ。じゃ、上司にでもいって借りればいいと提案したが、それも駄目でしたとのこと。同僚は?ダメ。友人は?ダメ。ひとり千円でも5人で五千円だよ。友達は千円も貸してくれないの?はい、ダメでした。おいおい・・・。あんたはそんなに信頼されてない人なんか?そんな人に初対面の私が金を貸すわけないだろうに。

というか、親類縁者に借りたら?ご両親はすでに他界し、弟がいるのだが昔から折り合いが悪く、今回も頼ってみたが「物を拾って食っているひともいる。」と言われて断られたらしい。案外弟の方がまともなのかも。本当に野垂れ死にしそうなら、職場の人も弟も金貸すでしょ。

さて、この人を観察してみると、まずタバコ臭い。胸のポケットにはタバコが入っている。「タバコ買う金があるなら食費に回せば?」と言ったら「これは以前カートン買いしたもので、最近買ったものではない」「電子マネーで買ったので返品できない」と答えた。

さぁ、ここらで話をするのも面倒になってきた。保険証も見せて信用を得るべく努力はしているが、この人甘い。1軒1軒回ってお金を借りる交渉をしようなんて、発想が甘い。多分弟が言いたかったのは「もっと必死に生きろ」ということではなかったか?本当に困っているのであれば、今日家族を食わせるためなら何でもします!的な発想でなくてはいけない。一番良いのは「仕事を下さい!」じゃないだろうか。「金なら返すから、とりあえず貸してよ」という考えが間違っている。

とはいえ、甘い人になにを言っても変わらない、というのが私の中には経験としてあるので(当院の中でもまったく同じ)、むしろかわいそうなのはこの人よりも3人の子供たちだと思い始めて、「考えが甘すぎる。あなたがもっとしっかりしなきゃダメでしょ」と軽いお説教をして、「金は1円も貸さない。でももう夜だし子供たちがお腹をすかせているというのであれば、2階にある私の食料をあげるからもっていきなさい」と言って昼食用に買っておいた未開封のパスタ1kgとレトルトのパスタソース8つとレトルトのご飯をまとめてあげた。

「ありがとうございます」と頭を下げていったが、「これは一応あげるのだけれども、返そうという気概があれば給与がでてからでよいから1000円でも返しに来てください」と伝えたが、結局来なかったな。予想通り。
多分、この人が生活保護に逆戻りするのは目に見えている。その方が楽だと悟ってしまっただろう。その要因のひとつを作ってしまったことに反省をしている。

さて、子供たちがちらついてかわいそうになって食事を与えた私は良いことをしたのか否か。甘やかしたのであれば間違っていたと今は思う。彼のためにもやはり労働の対価として食べ物を与えれば良かったと後悔している。草むしりでも窓ふきでも1時間でも必死にやらせれば良かった。世の中の当然の仕組みを身をもって教えないとこの手のひとは自ら学習することはない。わかっていたのにな。

ここでひとつ私の考えを述べる。
今って必死な人がすごく少ない。これって、やる気と発想力と行動力のある人にはすごく楽な時代。ちょっとやれば目立つこと必至。今の努力が花開くのは先のことだが、今自分に投資しないなら先はない。私個人では、年齢的にも体力的にもそろそろ先のことを考えた策を練らなければならない時期に差し掛かっている。それはそれでなんとなく楽しみ。

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